NAD+って何?健康やアンチエイジングに有用なわけ

NAD+って何?健康やアンチエイジングに有用なわけ

補酵素であるNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)なしでヒトは生きることができない。
本記事では、なぜNAD+が重要なのか、どうやって発見されたか、どうすればNAD+を増やすことができるのかについて解説する。

本記事より

NAD+はすべての生物細胞に存在する補酵素であり、生きていく上で不可欠な生物学的活動を行う上で必要とされる。しかし、NAD+血中濃度は年をとるにつれて減少していく。

NAD+は人体において、2つの一般的な反応に関わっている。一つは、代謝経路において栄養をエネルギーに変換するキープレイヤーとしての仕事。もう一つは、タンパク質の補助分子として様々な生物学的活動を制御する仕事である。

これらのプロセスは信じられないくらい重要で、酸化ストレスやサーカディアンリズムの制御からDNAの安定化まで責任をもち、人間が長く健康でいられるよう機能している。

NAD+はどのように健康や老化を改善するのか

生物学の教科書を開けば、NAD+のことが分かるだろう。この補酵素は、人間をはじめ、他の哺乳類から酵母、細菌の細胞内においても欠かせない仕事をしている。NAD+なしで生きる生物はなく、NAD+の減少は健康の悪化に伴って観察される。

1906年に初めて発見されて以来、その重要性に対する理解は深まり続けている。例えば、NAD+の前駆体は、ペラグラという1900年代に南アメリカで流行した致死的な病気を緩和させる役割を果たした。当時の科学者は、ミルクと酵母(どちらもNAD+前駆体を含む)がペラグラの症状を緩和させることを発見した。

さらに、科学者は数々のNAD+前駆体(ニコチン酸、ニコチンアミド、ニコチンアミドリボシドなど)が生体の自然な反応経路を通じてNAD+として利用されることを突き止めた。あらゆる経路がNAD+という同じゴールにつながっているが、そこへ到る過程で関わる輸送体や分子は様々である。

近年、NAD+は科学研究の分野で重宝されており、その生物における中心的な役割から、NAD+を操作して良い結果を引き出すことができないか動物実験されている。科学者の間では、NAD+がどれだけ健康全般と老化により生じる疾患に関係しているか研究され続けている。

例えば、2016年の研究では、筋肉が変性したマウスと線虫において、NAD+前駆体を投与したマウスでは筋機能の改善がみられた。2017年の研究では、NAD+前駆体を投与されたマウスでDNA損傷修復の増加がみられ、2歳のマウスの組織とNAD+前駆体を与えられていない月齢3ヶ月のマウスの組織が同様に若くみられた。

そして、2018年の研究で、NAD+ 前駆体を投与されたマウスは認知機能の改善がみられ、アルツハイマー病の治療薬となる可能性が指摘されている。最近の研究結果について少し触れたが、そのすべてが研究者を魅了し、研究の知見をヒトに活かそうと研究を続けている。

では、実際どのようにしてNAD+は、生体内で重要な役割を担っているのか?
概要を説明すると、NAD+は補酵素であり、他の酵素に結合して分子レベルでその反応を手助けすることで、我々の健康に対してポジティブな影響をもたらしている。

NAD+の生体内での働き

NAD+は、人体において2つの一連の反応に関わっている。

  • 栄養をエネルギーに変換する代謝反応のキープレイヤーとしての働き
  • 他の生物学的活動を制御するタンパク質の補助分子としての働き

しかし、体はエンドレスにNAD+を供給できるわけではない。実際、NAD+は年令とともに減少していく。

2012年から始まった、NAD+低下を調べる最初の研究では、人間の皮膚を調査し、補酵素が老化研究において大変重要なものであると結論づけた。2015年の人間を対象とした別の研究では、同様なNAD+低下を脳においても観察した。

NAD+研究の歴史、そしてその老化研究における近年の成果により、人間がNAD+を維持・増加させる方法の調査に、科学者が大挙して押し寄せることとなった。

年齢によるNAD+レベルの低下

NAD+研究の歴史

NAD+はSir Arthur HardenとWilliam John Youngによって1906年に初めて発見された。2人は発酵について理解を深めるため研究していた。NAD+への理解を深めるのにさらに20年の年月を要し、1929年、HardenはHans von Euler-Chelpinとともに、発酵における業績に対しノーベル化学賞を受賞した。

Euler-ChelpinはNAD+が2つのヌクレオチドをもつという構造を証明している。発酵という代謝過程はNAD+に依存しており、我々が今知っているようにNAD+が人体において欠かせない役割を担うと、当時の科学者も予想することができた。

Euler-Chelpinは1930年のノーベル賞受賞スピーチでNAD+に触れ、その重要性について言及した。「我々が精製と物質の構造決定にこれだけ力を注ぐ理由は、この物質が植物や動物において、最も普遍的に存在するものの一つであり、大変重要な生物学的活性化因子であるからだ。」

Otto Heinrich Warburgは「Warburg効果」で知られているが、1930年代に科学者を駆り立て、NDA+の代謝における役割をより深く知るために研究させた。1931年、化学者のConrad A. ElvehjemとC.K. KoehnはNAD+前駆体であるニコチン酸がペラグラの症状を緩和することを発見した。

その次の10年で、Arthur KornbergはNAD+を作る酵素であるNAD+合成酵素を発見した。彼は、後にDNAとRNAの構造の証明でノーベル賞を受賞することになる。この研究は、NAD+がどのように作られるかを理解する第一歩となった。

1958年、科学者Jack PreissとPhilip Handlerは、今で言うPreiss-Handler経路を定義した。この経路は、どのようにニコチン酸(ペラグラの治療となるビタミンB3と同じ形)がNAD+になるかを示している。これにより、科学者は食事におけるNAD+のさらなる役割を知ることができた。

科学者は現在までに、NAD+が健康全般に対して重要な役割を担うことに気付かされてきたが、細胞レベルで起こる複雑な影響についてはまだ発見できていない。次々に現れる最新技術を用い、さらに補酵素の重要性を包括的に認識しながら、科学者は老化という工程におけるNAD+の働きについて研究し続けている。

NAD+サプリメントが学習と記憶の機能を改善する

研究者たちは、アルツハイマー病のモデルマウスを新しく開発した。これらのマウスは、”モーリスの水迷路試験”という空間学習能力と記憶力を測定するための行動試験にかけられ、迷路から脱出するまでの時間が計測された。マウスは水が嫌いなので、できるだけ早く出口を見つけたいという動機づけがされている。

実験の結果、NR:ニコチンアミドリボシド(青線)を与えられたマウスは、何も投与されていないマウスと比べ、早く迷路から脱出できることがわかった。これは、NAD+サプリメントであるNRが、マウスの学習と記憶の機能を改善することを示唆している。

NAD+と老化プロセス

現在知られているようなNAD+の重要性は、1960年代から知られ始めた。雌鳥の肝臓からの核抽出物を用いて、フランス人科学者Pierre ChambonはボリADP-ribosylationと呼ばれる代謝工程を発見し、その工程でNAD+は2つの構造物に分かれた。

1つはニコチンアミドとなりリサイクルされ、もう1つはADPリボースとなりタンパク質と結合し細胞修復を助ける。この研究は、PARP(poly ADP-ribose polymerase)というNAD+に依存してDNA修復を制御するタンパク質群を知るうえでの礎となった。PARPは、サーチュインとよばれる別のグループのタンパク質群と似ており、どちらもNAD+の存在下でのみ機能する。

サーチュインは「長寿遺伝子」や「遺伝子の守護神」と呼ばれ、細胞の健康を制御する役割をもち、結果として老化にも影響を与える。サーチュインは1970年代に発見されたが、NAD+に依存することは1990年代になってやっと知られ始めた。

Elysiumの共同設立者であり、MITの生物学者であるLeonard Guarente博士はSIR2という酵母でみつかったサーチュインが、酵母の寿命を延長することを発見し、この寿命延長効果はNAD+存在下でSIR2が活性化されたときでのみ観察された。

「NAD+無しでは、SIR2は何もできない。これは、サーチュインの分子生態学を研究する上で大変重要な発見だ」とGuerente博士は述べている。

NAD+の栄養からエネルギーを作り出す働きとサーチュインがNAD+に依存するという事実から、サーチュインと代謝の関係が明らかになってきた。また、生体内NAD+レベルの変化が、他の生命維持に不可欠な機能に影響を与えるのではないかと、活発に研究が行われるようになった。

「今では、サーチュインに関する論文が12000も出ている。我々がNAD+依存性の活性を見つけたときの論文数はたったの数百だった」とGuarante博士は述べる。

ヒトはNAD+をアミノ酸を含む食事を通して摂取しており、アミノ酸もまたNAD+の前駆体である。ただ、NRは最も効率よくNAD+となる前駆体として知られており、科学者はより良いNAD+サプリメントを生み出そうと取り組んでいる。

NAD+の未来とヒトの健康

NAD+のとてつもない重要性が分かってからおよそ100年たったが、研究と技術的進歩により、ようやくヒトに対してどうやって有効利用するか分かり始めてきた。

NAD+の歴史とその周辺での反応が分かり始め、それを基に何ができるかを科学者たちは探求し続けている。NAD+のポテンシャルをどう引き出すかが、現在行われている研究の最大の関心であろう。

NAD+前駆体をもちいた動物実験では有望な結果が発表されている。例えば、2013年の研究では、NAD+レベルの増えたマウスでミトコンドリア機能が回復した。2018年にMITが発表した研究(本サイト別記事)では、NAD+によって活性化されたサーチュインにより高齢マウスの血管と筋肉の成長が促進された。

人間に対する研究では、2017年にElysium HealthがNAD+前駆体サプリメントを日常的に摂取することで血中NAD+濃度が平均して40%増加することを発表している。今までのところ、あらゆる研究が前途有望な未来へとつながる道を示しているのだ。

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