DHAとEPAの効果と違い

DHAとEPAの効果と違い

・DHAとEPAは、ともにω3系多価不飽和脂肪酸で、魚油に含まれる健康成分である。

・DHA、EPAはともに、膜機能の維持や脂質メディエーターとしての多くの生理作用を有している。

・DHAは、脳機能維持・神経保護作用が認められ、抗炎症作用・脂質改善効果はEPAより強いと考えられている。また、血圧や心拍数を低下させる作用も有する。

・心筋梗塞など致死性の冠動脈疾患に関して、DHA、EPAどちらも予防効果が認められている。

・DHAは神経系に対する作用や強い抗炎症作用を持つことから、EPAよりも生体にとって有益と言えるかもしれないが、DHAとEPAは互いに作用している可能性があり、今後の研究の進展が期待される。

[参考文献]
アンチエイジング医学 2018 Vol.14 No.5

はじめに

ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)は、ともにω3系多価不飽和脂肪酸で、脂ののった青魚の魚油に含まれる健康成分である。高脂血症治療薬として処方され、サプリメントとしても人気がある。DHA、EPAはともに、膜機能の維持や脂質メディエーターとしての多くの生理作用を有している(2)。日本人の一般的な食事では、EPAはほぼ100%が魚類由来であり、DHAは約90%が魚類由来で、残りの10%は鶏卵由来である(3)

以下より、脳機能維持・神経保護作用、抗炎症作用、脂質改善作用、抗不整脈薬作用などを中心にDHAとEPAの作用を比較していく。

DHAとEPAの比較

脳機能維持・神経保護作用

脳や眼の発達にはDHAが重要な役割を果たしており、このため現在では乳児用の粉ミルクにはDHAが付加されていることが一般的である。脳の組成を乾燥重量で表すと、50~60%が脂質である。脂肪酸は脳の脂質の重要な構成要素であり、その多くは細胞膜のリン脂質として存在する。多価不飽和脂肪酸の一つであるDHAは総脂肪酸の11%を占めているが、EPAはDHAの1/250~1/300と極めて少量しか脳に存在していない(4)(5)。神経細胞にはDHAを合成する酵素が欠損しており、脳内でのEPA、DHAの産生はほとんどないと考えられている。脳は血漿中のEPA、DHAを、脳血管関門を介して受け取っており、このため脳内のDHAの大部分は食事由来であると考えられる(5)

DHAの血中濃度の低下は、アルツハイマー病患者で観察されることが多くの研究で明らかにされている。例えば、米国のフラミンガム・スタディでは、血漿中のDHAの低下が認知機能の低下やアルツハイマー病の発症と関係していることが報告されている(6)。頭部MRI画像によるフラミンガム・スタディのサブ解析では、赤血球中のDHAの低い群ではMRI画像上の脳容積が小さく、認知機能テストのスコアも低かったなどの報告がある(7)。赤血球の半減期が120日であり、赤血球中のDHA量は長期間のDHA摂取量を反映していると考えられることから、習慣的なDHAの摂取が少ないことが脳の老化促進やアルツハイマー病発症と関係する可能性がある。しかし、DHAの認知機能、認知症への影響には個人差が大きいとの指摘もある。アルツハイマー病のリスクであるApoE4遺伝子を持たない者では、DHAの認知機能や認知症への影響が認められたが、ApoE4遺伝子を持つ者では認められなかったという(8)

認知症、認知機能障害だけでなく、DHAは統合失調症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、境界型パーソナリティ障害などの精神疾患との関連も指摘されている。ラットでは、胎生期に母体がω-3系多価不飽和脂肪酸の少ない飼料で飼育されていた場合、生後に脳内のDHAが高くなるような飼料を与えられても、不安行動を示すことが多くなるという(10)。妊娠期の母体の多価脂肪酸摂取量が成長後の子の健康に影響を与えるという、疾患の胎生説を支持する研究結果であろう。

抗炎症作用

膜のリン脂質から遊離したω-3系脂肪酸のEPA、DHAには抗炎症作用、炎症収束作用があり、炎症を抑制して組織の修復を促進させる。EPAからは、炎症収束性の脂質メディエータであるレゾルビン(Eシリーズ)が産生される。DHAからも炎症収束性のレゾルビン(Dシリーズ)が産生されるが、さらに炎症収束性のプロテクチンとマレシンも産生される。特にマレシンは再上皮化を刺激する作用があり、組織の再生を促進させる(11)

腹部型肥満で軽度の炎症反応がみられる男女154名を対象として二重盲検ランダム化比較試験(RCT)を行い、EPAとDHAによる炎症マーカーの変化について比較を行った報告がある(12)。IL-6の低下はEPA、DHAの両者で認められたが、CRP、IL-18、TNF-αはDHAのみで低下、アディポネクチンはDHAのみで増加している。この結果から、全体として抗炎症作用はDHAの方がEPAよりも強いと思われる。

脂質改善効果

EPA、DHAは血中のトリグリセリド(TG)を低下させるが、LDLコレステロール(LDL-C)を増加させてしまうことが知られている。脂質に対してのEPAとDHAとの作用の違いをメタアナリシスで解析した報告がある(13)。これによると、DHAはLDL-Cを有意に上昇させたが、EPAはLDL-Cの上昇はなかった。直接比較でもDHAはEPAよりもLDL-Cを大きく上昇させていた。TGについては、EPA、DHAともに有意に低下させていたが、直接比較ではDHAによる低下の方が大きかった。また、DHAは対照群に比べて有意にHDL-コレステロール(HDL-C)を上昇させていたが、EPAではHDL-Cの上昇はみられなかった。全体として、DHAの方がEPAよりも好ましい脂質改善効果が得られるとされている。

心血管に対する効果

DHA、EPAの心血管に対する効果についてのシステマティック・レビューでは、DHAが血圧や心拍数を低下させるのは明らかであるが、EPAに有意な血圧低下作用はなく、また心拍数低下も報告数は少なく結果が曖昧であるとしている(14)

心筋梗塞など致死性の冠動脈疾患に関しての数多くの研究では、DHA、EPAに予防効果が認められており、致死性の不整脈の予防がその要因になっているという(15)。DHAの血中濃度はEPAの数倍高く、また心筋細胞膜のDHA濃度もEPAよりも高い。DHAにはEPAにはない心房細動のリスクを下げる作用があり(16)、DHAの抗不整脈作用が心筋梗塞などによる死亡を防いでいる可能性がある。

一方、EPAにおいて、The Japan EPA Lipid Intervention Study(JELIS)において、スタチンとEPA製剤併用群では、主要冠動脈イベントリスクが19%、不安定狭心症リスクが24%、非致死性心筋梗塞リスクが25%減少した。耐糖能異常症例、高中性脂肪血症や低HDLコレステロール血症合併例、冠動脈疾患既往の高リスク症例のサブ解析において、スタチンとEPA製剤併用群は、スタチン単独投与群に比べてイベント抑制効果が顕著であった(17)

おわりに

DHAとEPAはともにω-3系の多価不飽和脂肪酸として、抗炎症作用や脂質改善作用などを有している。DHAは神経系に対する作用を有しており、また抗炎症作用も強い。このため、EPAに比べれば、生体への有益な作用はより大きいと言えるかもしれない。しかし、DHAとEPAの血中濃度には強い相関があり、互いに相補的に、場合によっては相乗的に作用している可能性がある(14)。この分野の研究はまだまだ十分でなく、今後の研究の進展が期待される。

参考文献

(2)西川正純. 魚食とDHA・EPA. 水産振興. 2016 : 584 : 1-66

(3)川端輝江. EPAとDHAの生理作用. そのメカニズム. 食と医療. 2018 ; 4 ; 16-22.

(4)Hamazaki K, Hamazaki T, et al. Abnormalities in the fatty acid composition of the postmortem entorhinal cortex of patients with schizophrenia, bipolar disorder, and major depressive disorder. Psychiatry Res. 2013 : 210 ; 346-50

(5)橋本道男. ω3系脂肪酸と認知機能. 日本臨床. 2014 : 72 : 648-56

(6)Schaefer EJ, Bongard V, et al. Plasma phosphatidylcholine docosahexaenoic acid content and risk of dementia and Alzheimer disease: the Framingham Heart Study. Arch Neurol. 2006 : 63 : 1545-50

(7)Tan ZS, Harris WS, et al. Red blood cell ω-3 fatty acid levels and markers of accelerated brain aging. Neurology. 2012 : 78 : 658-64

(8)Whalley LJ, Deary IJ, et al. n-3 Fatty acid erythrocyte membrane content, APOE varepsilon4, and cognitive variation an observational follow-up study in late adulthood. Am J Clin Nutr. 2008 : 87 : 449-54

(10)Sakayori N, Kikkawa T, et al. Maternal dietary imbalance between omega-6 and omega-3 polyunsaturated fatty acids impairs neocortical development via epoxy metabolites. Stem Cells. 2016 : 34 : 470-82

(11)Serhan CN, Dalli J, Colas RA, et al. Protectins and maresins; New pro-resolving families of mediators in acute inflammation and resolution bioactive metabolome. Biochim Biophys Acta. 2015 : 1851 : 397-413

(12)Allaire J, Couture P, et al. Protectins and maresins: A randomized, crossover, head-to- head comparison of eicosapentaenoic acid and docosahexaenoic acid supplementation to reduce inflammation markers in men and women: the Comparing EPA to DHA (ComparED) Study. Am J Clin Nutr. 2016 : 104 : 280-7

(13)Wei MY, Jacobson TA. Effects of eicosapentaenoic acid versus docosahexaenoic acid on serum lipids: a systematic review and meta-analysis. Curr Atheroscler Rep. 2011 : 13 : 474-83

(14)Mozaffarian D, Wu JH. (n-3) fatty acids and cardiovascular health are effects of EPA and DHA shared or complementary? J Nutr. 2012 : 142 : 614S-25S

(15)Mozaffarian D, Wu JH. Omega-3 fatty acids and cardiovascular disease: effects on risk factors, molecular pathways, and clinical events. J Am Coll Cardiol. 2011 : 57 : 1697-9

(16)Virtanen JK, Mursu J, et al. Serum long-chain n-3 polyunsaturated fatty acids and risk of hospital diagnosis of atrial fibrillation in men. Circulation. 2009 : 120 : 2315-21

(17)Saito Y, Yokoyama M, et al. Effects of EPA on coronary artery disease in hypercholesterolemic patients with multiple risk factors: sub-analysis of primary prevention cases from the Japan EPA Lipid Intervention Study(JELIS). Atherosclerosis. 2008 : 200 : 135-40


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