老化細胞の除去による若返りの可能性

老化細胞の除去による若返りの可能性

・老化細胞はアポトーシスに対して耐性をもち、老化および炎症に影響を与えている。

・マウスにおいて、老化細胞の蓄積率と健康寿命、または寿命との間に関連性が報告された。

・老化は癌の進行を止める防御機構であるが、その蓄積により癌の発達を促進させうる。それゆえ、老化細胞の形成を止めることは望ましくないが、すでに形成された老化細胞を除去することは望ましいと考えられる。

・老化細胞のセノリティックアプローチに対して楽観的に思える要素は3つあり、少なくとも14種のセノリティック薬が有望と思われる。

・セノリティック薬は、変形性関節症や特発性肺線維症などで臨床試験が行われている。

[参考文献]
アンチエイジング医学 2018 Vol.14 No.5

●インタビュー
James L.Kirkland, M.D., Ph.D.
Norbert Foundation Professor of Aging Research,
Director, Robert and Arlene Kogod Center on Aging,
Mayo Clinic Rochester, Minnesota, USA

老化研究の経過

老化細胞は、ただの不活性細胞であると考えられていたが、老化細胞は老化および炎症に影響を与えている。老化細胞とは、通常分裂が停止した細胞であり、死滅に対して耐性をもっている。

1960年代前半に、HayflickとMooorheadの細胞培養システム内で初めて発見された(1)。培養されたヒト細胞は、分裂が停止する前に限られた回数のみの分裂が起こることを発見した。それらは死滅することなく、非常に長期間にわたり、老化状態と複製停止状態のままでいることができた。

1995年に、Eugenia Wangは老化細胞が死滅、つまりプログラミングされた細胞の死滅、「アポトーシス」に対して非常に高い耐性をもつことを報告した(2)。例えば、老化細胞は血清の培養液を死滅するほどまで下げたとしてもアポトーシスしない。つまり、正常細胞が数日で死滅する条件下でも、老化細胞は何年も共存することができる。

そして、1990年代後半から2000年代前半にかけて、複数の研究チームが、老化細胞は複数の慢性疾患を抱える年老いた実験動物の生体内でも発達することを発見した。

2004年に、米国国立癌研究所現所長であるNedSharplessが、マウスの加齢に伴い、これらの細胞が蓄積するだけではなく、その蓄積率が動物の寿命に関連することを発表した(3)。カロリー制限されたマウス、もしくは成長ホルモンシグナル伝達が不十分の矮小マウス(Ames dwarf mice)は寿命を延ばしている。これらの寿命が伸びたカロリー制限と矮小マウスでは老化細胞の蓄積も遅くなっている。つまり、老化細胞の蓄積率と健康寿命、または寿命との間に関連性が発見された。

その後、Judith Campisiが、老化関係の分泌表現型(SASP)を発見した。彼女は、培養された老化細胞が、サイトカインや免疫細胞を誘引するケモカイン、さらに細胞外マトリックスを分解するプロテアーゼを含めたさまざまな炎症誘発性メディエーターを生成することを発見した。(4)

老化細胞除去(セノリティックス)の発想

Wang、Sharpless、Campisiの研究報告が、老化細胞を死滅させる薬剤を開発する事に確信をもたせ、Kirklandは2005年からこの薬剤開発に着手した。Campisiは、かつて老化細胞が悪玉ではなく、実は癌を予防する善玉であると仮説を立てていた。細胞の複製、分化、アポトーシスと同様、細胞の老化は細胞の運命である。細胞の老化を促すシグナルの種類は、腫瘍細胞の突然変異、癌遺伝子の発現、癌細胞内で起きる大部分の代謝状態の変化、もしくはシグナル伝達を損傷する損傷関連分子(DAMPs)との接触のような癌細胞内で起きる変化を含む。このようなシグナルは個別でも、または組み合わせでも細胞老化の開始を促進する。(5)

細胞が老化状態になると分裂は止まり、数週間で完全に老化し、SASP因子を放出し始める。細胞が突然変異を起こし、老化を免れると、完全な癌細胞になる。したがって、老化を誘発する増殖の停止は、癌の進行を止める上で重要な防御機構になるかもしれない。老化細胞が癌に対して与える他の防御機能は、Judithが示した老化細胞のSASPだ。SASPは老化細胞の周辺の細胞を死滅させる。もし癌の中に老化細胞があれば、この細胞の分泌性表現型により、老化細胞周辺の癌細胞を破壊できるかもしれない。

しかし、老化細胞が十分に蓄積されると、実際にはそれらは癌細胞の発達を促進する。SASPの一部である増殖因子は、老化細胞の分裂を促進させ、老化細胞が放出する炎症因子は癌に対する免疫防御を弱める可能性がある。つまり、癌の発達と促進に関して、陰と陽の両側面を持ち合わせるのだ。

老化細胞は、プログラムされた細胞の死滅(アポトーシス)に耐性があり、通常は免疫システムによって除去される。老化細胞が蓄積するにつれて、癌細胞を除去するための免疫システムの能力は圧倒されるが、これは老化細胞の蓄積を加速させるかもしれない。一旦、老化細胞が十分な量になると、老化細胞によって放出されたSASP因子は実際に癌の拡大を促進するという悪循環になる。また、老化細胞が分泌するサイトカインは非癌性細胞の癌化を促進するかもしれない。さらに、老化細胞が分泌するプロテアーゼは、組織を分解し、癌細胞を増殖させることもできる。これらのプロテアーゼはまた、Fasリガンドのように免疫細胞が依存する細胞表面のタンパク質を切断することで免疫システムを妨害し、免疫防御を弱めることができる。多くの老化細胞は前癌性細胞になる可能性を秘めている。

老化細胞の発達を妨げる突然変異、例えば、老化発達の主要なメディエーターであるp16やp53の発現を減少させるような突然変異がおきると、マウスでは癌が非常に早い段階で発生する。つまり、老化細胞の形成を止めることは望ましくないが、一旦、形成された老化細胞を除去することは望ましいであろう。

セノリティックスのアプローチと現在の研究

老化細胞を除去する方法として、ケルセチンや他の老化細胞のセノリティック薬など多くのアプローチがある。老化細胞のセノリティックアプローチに対して楽観的に思える要素としては、3つの要素がある。

第一に、実験動物において、セノリティック薬は数多くの非常に良い成果が確認されている。第二に、セノリティック薬の多くは人への使用が承認されたものや、安全だと知られる天然成分由来の既存の薬から開発されたものであるため、おそらく全くヒトを対象に試験されていない他の介入と比較し、安全性に関して懸念事項が少ない。そして、第三に、一般的に加齢のメカニズムは生物種間で保持される傾向にあるためだ。つまり、実験動物で効果的だった細胞老化のような根本的な加齢のプロセスを標的とする介入はヒトでも効果的かもしれない。

現時点で少なくとも14種のセノリティック薬が有望であると思われ、開発中のものも多くある。作用機序の例として、老化細胞の抗アポトーシス経路(SCAP)を一瞬中断するだけで、老化細胞を自らのSASPによって自滅させる方法がある(6)~(10)。異なる老化細胞はそれぞれ異なるSCAPに依存しており、少なくとも7種類が確認されている。そのうち6種類の老化細胞は発表されており、1種が間もなく発表されるところだ。異なるセノリティック薬は、それぞれ異なるSCAPや、それらの組み合わせを阻害し、異なる種類の老化細胞に合わせた効果を発揮する。例えば、内皮細胞は生存するのにBCL-2系に依存するため、もしnavitoclaxやA1331852を標的とするBCL extralarge (BCL-xL)のような特定のSCAPsを標的にすると、それは内皮老化細胞を死滅させる。(7)(8)複数のSCAP経路に依存している老化細胞型もあり、SCAPsのいくつかは、それらを死滅させるために複数を標的にしたり、死滅させるために複数の薬と組み合わせる必要がある。

臨床試験で対象となっている疾患は、たとえば、口腔からのセノリティック薬による全身投与、もしくは薬の局所適応が可能なものである。局所的な適用は、関節周辺の老化細胞の蓄積によって引き起こされた変形性関節症の関節への注射であり(11)、ほかに開始された試験は特発性肺線維症のような疾患を対象にしている。少なくともマウスにおいて、あるセノリティック薬は、ヒトの特発性肺線維症による機能不全や進行を緩和する上で非常に有効であり(12)、セノリティック薬を使用した特発性肺線維症に対する多施設共同試験が最近開始されている。

セノリティック薬のよいところは断続的な投与ができることだ。実際に最も効果的な方法は、薬を断続的に投与することである。(13)これまで発表されたセノリティック薬の多くは短い半減期を有していたが、もし2週間ごと、もしくは月1回、マウスに投与さえすればそれらは効果的に作用した。なぜなら、細胞培養や生体内で新しい老化細胞が形成されるのに2~6週間かかるからだ。これらの薬はレセプターを連続的に占有せず、酵素にも影響を与えない。KirklandらがNat Med誌に発表したばかりの論文では(14)、加齢により引き起こされる骨粗鬆症を軽減するために、セノリティック薬であるダサチニブやケルセチンを月に1回投与すれば良いと判明した。この断続的な投与は、毎日投与するのと同様に有効であり、副作用は継続的な投与と比較して軽減されるメリットがある。

[インタビュー余談]

ちなみに、ケルセチンはタマネギやリンゴに含まれている。りんごやイチゴのようなセノリティックスを含む果物や野菜を食べることはもちろん安全であるが、それらが老化細胞を除去するのに十分なセノリティックスを含む成分量であるか研究の必要がある。

[参考文献]

1) Hayflick L, Moorehead P. The serial cultivation of human diploid strains. Exp. Cell Res. 1961 ; 25 : 585-621
2)Wang E. Senescent human fibroblasts resist programmed cell death, and failure to suppress blc2 is involved. Cancer Res. 1995 ; 55 : 2282-92
3)Krishnamurthy J, Torrice C, Ramsey MR, et al. Ink4a/ Arf expression is a bio marker of aging. J Clin Invest. 2004 ; 114 : 1299-307.
4)Coppe JP, Patil C, Rodier F, et al. Senescence-associated secretory phenotypes reveal cell-nonautonomous functions of oncogenic RAS and the p53 tumor suppressor. PLoS Biology. 2008 ; 6 :2853-68
5)Kirkland JL, Tchkonia T. Cellular Senescence: A Translational Perspective. EBioMedicine. 2017 ; 21-8
6)Zhu Y, Tchkonia T, Pirtskhalava T, et al. The Achilles’s heel of senescent cells: From transcriptase to senolytic drugs. Aging Cell. 2005 ; 14 : 644-58.
7)Zhu Y, Tchkonia T, Fuhrmann-Stroissnigg H, et al. Identification of a novel senolytic agent, navitoclax, targeting the Bcl-2 family of anti-apoptotic factors. Aging Cell. 2015 ; 15 : 428-35.
8)Zhu Y, Doornebal Ej, Pirtskhalava T, et al. New agents that target senescent cells: the flavone, fisetin, and the  BCL-XL inhibitors, A1331852 and A1155463. Aging (Milano). 2017 : 9 : 780-5.
9)Fuhrmann-Stroissenigg H, Ling YY, Zhao J, et al. Identification of HSP90 inhibitors as senolytics for extending healthspan. Nat Commun. 2017 ; 8 ; 422
10)Xu M, Pirtskhalava T, Farr JN, et al. Senolytics improve physical function and increase lifespan in old age. Nat Med. 2018 ; 24 : 1246-56.
11)Xu M, Bradley EW, Weivoda MM, et al. Transplanted Senescent Cells Induce an Osteoarthritis-Like Condition in Mice. The journals of gerontology. J Gerontol A Biol Sci MEd Sci. 2017 : 72 : 780-5.
12)Schafer MJ, White TA, Iijima K, et al. Cellular senescence mediates fibrotic pulmonary disease. Nat Commun. 2017 ; 8 : 14532.
13)Kirkland JL, Tchkonia T, Zhu Y, et al. The Clinical Potential of Senolytic Drugs. J Amer Geriatr Soc. 2017 ; 65 : 2297-301.
14)Farr JN, Xu M, Weivoda MM, et al. Targeting cellular senescence prevents age-related bone loss in mice. Nat Med. 2017 : 23 : 1072-9.


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