神経活動が人間の寿命に影響する初めてのエビデンス!ハーバード大学による研究2019/10/16

神経活動が人間の寿命に影響する初めてのエビデンス!ハーバード大学による研究2019/10/16

ハーバード大学の研究によると、神経系の活動が人間の寿命に影響を与える可能性があることが発見された。 神経の興奮は短い寿命と関係しており、神経の過活動を抑えることで寿命の延長がみられた。 RESTと呼ばれるタンパク質は、年をとった脳が認知症やその他の疾患へかかるのを保護すると以前示されていたが、老化に関連する分子カスケードにおいても重要な役割を果たしていた。 この度の発見は、アルツハイマー病から双極性障害に及ぶ神経疾患への新たな治療方法につながるかもしれない。

本記事中より

老化と神経系の役割

ハーバード大学医学部ブラバトニック研究所の研究によると、脳の神経活動は、認知症からてんかんといった幅広い疾患に関係があると昔から示唆されていたが、人間の老化や寿命にも関与しているようです。

Nature誌で10月16日に公開されたこの論文は、人間の脳、マウス、および線虫を用いた研究に基づいています。脳内の過剰な活動はより短い寿命と関係している一方で、そのような過剰な活動を抑えると寿命の延長が認められました。

この発見は、神経系の活動が人間の寿命に影響を与える最初の科学的な根拠となります。以前にも、神経系の一部が動物の老化に影響を与えることが示唆されていましたが、特に人間の老化における神経活動の役割は不透明なままでした。

「私たちの発見の興味深い側面は、神経回路の活動状態のような一過性のものが、生理機能や寿命といった壮大で複雑なものに影響を与える可能性があるということです」と本研究の責任著者であるハーバード大学医学部遺伝学教授Bruce Yankner氏は述べます。

全ての道はRESTに通ず

神経の興奮は、インスリンとインスリン様成長因子(IGF)シグナル伝達経路に沿って老化に作用するようです。この経路は、長寿に関係することが多くの研究によって知られています。

このシグナル伝達経路における鍵は、RESTと呼ばれるタンパク質のようで、老化した脳を認知症や他のストレスから保護する機能がYankner氏らの研究によって示されていました。

神経の過剰な興奮には、筋肉の収縮や感情、思考といった様々な形で現れます。ただ、これまでの研究からは、人の思考や人格、行動が寿命に与える影響について、まだ明らかになっていません。

この研究は、アルツハイマー病や双極性障害などの神経過活動を伴う症状の新しい治療法の設計に役立つ可能性があります。RESTを標的とする薬や、瞑想などの特定の行動が、神経活動を調節することで寿命を延ばす可能性を秘めています。

線虫・マウス・ヒトでの研究

Yankner氏と研究チームは、60歳から100歳以上で亡くなった何百人もの人々から寄付された脳組織の遺伝子発現パターンを分析することから調査を開始しました。すると、長寿の人々(85歳以上)は、60歳から80歳の間に死亡した人よりも神経興奮に関連する遺伝子の発現が低かったのです。

次に、この調査結果が相関関係なのか因果関係なのかという疑問がわきます。神経興奮遺伝子のこの発現の差は、寿命を決定する別の要因に付随して起こっただけなのでしょうか、それとも神経興奮遺伝子が寿命に直接影響していたのでしょうか?もしそうなら、どのように働いたのでしょう?

そこで研究チームは、モデル生物Caenorhabditis elegans(線虫)を用いて、遺伝子、細胞、および分子生物学的な試験を数多く実施しました。加えて、遺伝子改変マウスや100歳を超えた人々の脳組織の分析まで行いました。

これらの一連の実験で、神経興奮の変化が実際に寿命に影響することを明らかにし、分子レベルで何が起こっているのかを明らかにしました。

すると、すべてシグナルはタンパク質RESTを目指していたのです。

RESTは、遺伝子を制御する働きで知られていますが、加えて神経興奮を抑制することを発見しました。動物モデルでRESTをブロックすると、神経活動が活発になり寿命が短くなります。一方で、REST活性化すると逆の結果になります。また、100歳以上の人は、70代または80代で亡くなった人よりも脳細胞の核内に多くのRESTがありました。

「さまざまな研究結果がRESTに収束していく過程は非常にエキサイティングでした」本研究の共著者であり、C.elegansの共同研究を行ったハーバード大学医学部遺伝学教室教授Monica Colaiácovo氏は述べました。

創薬とアンチエイジングへの期待

研究者たちは、虫から哺乳類にわたって、RESTが神経興奮に中心的に関与する遺伝子(イオンチャネル、神経伝達物質受容体、シナプスの構造成分など)の発現を抑制することを発見しました。

神経興奮の低下は、フォークヘッド型転写因子として知られるタンパク質ファミリーを活性化します。これらのタンパク質は、多くの動物でインスリン/ IGFシグナル伝達を介して「長寿経路」に通じることが示されています。これは、カロリー制限によって活性化されると考えられている経路と同じなのです。

神経変性を防ぐという役割に加えて、長寿におけるRESTの働きが発見されたことで、このタンパク質を標的とする薬物を開発がさらに盛んに行われるでしょう。

「RESTを活性化することで、興奮性の神経活動が減少して人間の老化が遅くなる可能性があり、とても夢のある研究です」とColaiácovo氏は述べています。

著者は、高齢者を対象とした大規模なコホート研究がなければ、この実験は不可能だったと強調しています。

「現在、これらの研究に十分な数の参加者がおり、この高齢の参加者達を遺伝的サブグループに分けて観察させてもらっています」とYankner氏は述べています。 「この情報は非常に貴重であり、遺伝学という学問分野を将来にわたって発展させていく大切さを示しています。」

長寿研究カテゴリの最新記事