老化に与えるインスリン/インスリン様成長因子シグナリング(IIS)経路の影響

老化に与えるインスリン/インスリン様成長因子シグナリング(IIS)経路の影響

・幅広い種で、老化とIIS経路を結びつける遺伝的・生化学的な証拠が多く存在する。

・インスリン経路は特に栄養における制御に関わり、IGF-1は成長に関係している。

・C.elegansにおいて、IIS経路の機能喪失遺伝子変異により、寿命が2倍になった。

・成長ホルモン(GH)シグナル伝達が抑制されたマウスは一般的に長寿であり、GH分泌が過剰なマウスでは寿命が短くなるようだ。

・IGF-1受容体の特定の機能喪失は100歳以上生きたヒトのコホートで多く見られている。

・IIS経路抑制による寿命延長効果は、ワームではDAF-16、哺乳類ではFOXOが寄与しているのではないか。

[参考文献]
“Key Proteins and Pathways that Regulate Lifespan” Haihui Pan1, and Toren Finkel1,*
1 Center for Molecular Medicine, National Heart, Lung, and Blood Institute, NIH,
JBC Papers in Press. Published on March 6, 2017
Picture form “Key Proteins and Pathways that Regulate Lifespan”

インスリン経路と寿命の関係

インスリン経路が寿命と関係するという最初の証拠は、C.elegansで観察されたage-1とdaf-2の機能喪失変異でした。これらの遺伝子産物は、それぞれPI3Kとインスリン様受容体としてワーム内で機能し、これら機能喪失変異が増幅することにより寿命が2倍になりました。

続いて行われた研究により、これら2つの遺伝子産物が一つの経路で寿命を制御していることが示されました。さらなる分析で、FOXO転写因子Daf-16がC.elegansにおけるIIS経路の主な転写標的であることが分かりました。

ハエなどその他のモデル生物も、IISシグナルを緩やかに減らす同様な遺伝子変異によって寿命が制御されることが示されたのです。

インスリン経路とは

IIS経路は、インスリン、インスリン様ペプチド、細胞表面膜貫通受容体、基質、下流の効果器などを含む経路のことで、ホルモンを介して細胞シグナル伝達を制御しています。先に述べたように、幅広い種で老化とこの経路を結びつける遺伝的・生化学的な証拠が多く存在するのです。

この経路が哺乳類の寿命に関係している証拠がたくさんあるにもかかわらず、モデル生物と哺乳類のIISシグナルには大きな違いがあります。例えば、ワームは約40種の異なるインスリン様ペプチドを有し、寿命を調節している可能性があります。

その上、高等生物においてインスリンとインスリン様ペプチドは共に体のサイズや細胞成長の発達を制御していますが、インスリン経路は特に、栄養における制御に関わり、IGF-1は成長に関係するという役割分担があります。

哺乳類では、IGF-1(主に肝臓で生産される)のレベルは下垂体から分泌される成長ホルモン(GH)により制御されます。しかし、酵母やハエ、ワームにおいてGHとはっきり同等と言えるものはないのです。

中枢の欠損や、末梢GH受容体の機能の遺伝的変異によりGHシグナル伝達が抑制されたマウスは一般的に長寿です。一方、GH分泌が過剰なマウスのモデルでは寿命が短くなるようです。

GH分泌の少ないマウスでは、思った通りIGF-1のレベルが少なくなっていますが、Igf-1欠損マウスでは非常に生存率が低くなり、4週齢マウスにおけるIgf-1の条件付き欠損では、メスの平均寿命は16%増加しました。オスにおける同様な遺伝子欠損は寿命を変化させませんでした。

この性別間の反応の違いについてはよく分かっていませんが、インスリン受容体基質1(IRS-1)ノックアウトマウスやIGF-1受容体の1アレル欠損においてもみられました。ヒトにおいて、IGF-1受容体の特定の機能喪失は百歳以上生きたヒトのコホートで多く見られています。

ストレス耐性と寿命の増加

どうしてインスリンやIGF-1シグナル伝達の抑制が、寿命の増加につながるのでしょうか。

ワームにおいて、この経路にはdaf-1とdaf-16の両方が関係しており、これらはストレス耐性を制御する変異として知られています。C.elegansにおいても、転写因子DAF-16はストレス耐性、免疫機能、代謝に関わる数百もの遺伝子発現を調節しています。

このように、IIS経路に変異をもつ長寿ワームは、酸化や浸透圧、紫外線、熱、低酸素といった環境ストレスに広く耐性を持つようです。これらの機能は高等生物でも広く保存されているものです。

例えば、DAF-16がワームにおいて抗酸化能力を規定する一方、同様の制御が哺乳類のFOXOの同族においてもみられます。ストレス耐性の広範な向上に加え、長寿IIS変異体は長寿を説明する別の理由も持つようです。

ヒトでは、循環するIGF-1のレベルと幅広い癌の発達に強い相関が見られています。逆に、IGF-1が低値の人は、身長は低い一方、癌になる確率が極めて低くなるようです。また、IIS経路の変異は、寿命の延長に関係のあるmTOR経路にも影響をあたえいることが分かってきています。

しかしながら、様々な組織におけるGH受容体変異体において、全身のノックアウトマウスのような寿命の延長はみられませんでした。成長ホルモンとIGF-1の間には関係があるものの、寿命延長のメカニズムについてはまだ研究の余地がありそうです。

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