「若さの泉」は存在する?あるよ、ただしマウスになら。その②

「若さの泉」は存在する?あるよ、ただしマウスになら。その②

サプリメントという抜け穴

食品医薬品局は、加齢を病気として分類していません。つまり、長寿を目的とする医薬品は、一般に、人間への影響をテストするための臨床試験を受けることができません。さらに、FDAはサプリメントに対して、医薬品と同じ安全性または有効性試験を要求していません。

Elysium社のホームページの見出しには、ニコチンアミドリボシド分子とプテロスチルベンを含む当社のサプリメント”Basis”が「臨床試験で安全性と有効性を証明した」と述べています。しかし、そのサプリメントが、マウスと同様に人間のアンチエイジングに効果的であるとは証明されていません。ただ、血中NAD+レベルを増加させたことが示されています。

Elysium社は、【臨床的に証明されている】という謳い文句で、サプリメントを販売しています。 しかし、人間において、この化学変化がどのようなメリットとリスクをもたらすかは不明です。

動物の研究に基づくと理にかなっている介入でも、ヒトには予期せぬ影響を与えることが多くあります。例えば、人参に含まれ健康に良いとされるβカロテンは、喫煙者の肺がんのリスクを減少させるのではなく増加させるという大規模な臨床試験の結果がみられています。

Elysium社自身の研究では、Basis摂取により、コレステロールがわずかですが有意に増加した記録がありますが、その変化が「サプリによるものか偶然か」を判断するにはさらに研究が必要です。

Elysium社の共同創立者であり主任科学者である、マサチューセッツ工科大学(MIT)のLeonard Guarente教授は、Basisの副作用を心配していないと語り、会社が堅実な研究に専念していることを強調しました。彼は、会社が顧客の安全に関する報告を監視し、健康上の問題がある顧客にはBasisを使用する前に医師と相談するよう助言しています

ウィスコンシン大学の法学教授であるAlta Charo氏は、次のように語っています。 「病気の治療薬として販売している場合、FDAは介入できます。しかし、サプリメントとして販売され、それが有害だと証明されていないなら、FDAは行動を起こすことができないのです。」

よって、サプリメント販売会社は、市場へ売り出す前に自社で安全性と効果を確認する必要があるのです。

権威と虚構

ハーバード大学医学部の元学部長であるFlier氏は、学部長を辞任した後、以前から苦情を聞いていた科学者とElysium社の関係を調べていました。すると、会社のウェブサイトに名前や写真の掲載を許可した取締役会メンバーの多くが、Elysium社のサプリメントにおける科学的根拠についてほとんど知りませんでした。取締役のある科学者は、会社に助言する実際の役割を持たず、会社の会議に出席したことさえありませんでした。それでも、Elysium社は取締役会での彼の役割に対して報酬を支払っていました。

ハーバード大学技術開発局の広報部長は、ハーバード大学がElysium社から研究資金を受け入れる際の合意において、大学の方針を順守し、「研究者の伝統的な学術的中立性を守る」と述べました。また、「ハーバード大学の教授陣が率いる研究を支援することにより、科学の進歩にコミットメントを表明する企業パートナーと研究契約を締結しています」付け加えています。

ハーバード大学と同様に、メイヨークリニックは、Elysium社とのライセンス契約から得られる金額の詳細を公表することを拒否しました。「同社は、科学的証拠に裏付けられた製品の開発に取り組んでいる説得力のある証拠を提出しました」と、メイヨーの広報担当者は述べています。

Elysium社のGuarente教授は、自身やElysium社が同社サプリメントBasisの販売から得ている金額の公表を拒否しました。 MITは、彼が利益相反している旨の声明を発表していません。

一方で、民間投資ファンドは、物質がヒトに作用するかという質問にもかかわらず、長寿研究にお金を注ぎ続けています。

Elysium社の主要な投資家の1つに、モーニングサイドグループがあり、この投資会社はハーバード大学への最大の寄付者であるGerald Chan氏が運営します。同社はハーバード大学公衆衛生学部にも3億5,000万ドルを寄付しました。

また、Billionaire社とWeWork社の共同創設者であるAdam Neumann氏は、Sinclair氏のLife Biosciences社に投資しています。

老化研究への止まらない挑戦

ハーバード大学研究者によって設立されたベンチャー企業であるElevian社の目標は、加齢性疾患を予防および治療するために”GDF11”というホルモンの活性レベルを高める新薬を開発することです。

ハーバード大学のAmy WagersやRichard Leeら創業者による研究では、高齢の動物に循環因子GDF11を補充することで、血液の若返りの効果である、心臓・脳・筋肉・その他の組織の修復がもたらされたと説明されています。

しかし、この分野で有名な他の研究室では、この実験の再現ができておらず、否定的な結果がみられているようです。

Elevian社のCEOであるMark Allen氏は、GDF11に関する初期の科学データは有望だと述べる一方で、次のように発言しています。「創薬は、時間のかかるリスクの高いプロセスであり規制も多いです。新薬を市場に届けるまでには、長期間の研究、前臨床[動物]研究、および人間の臨床試験が求められます。」

Flier氏は、老化研究の重要性と有望性を認識しつつも、この分野での研究で妥協がみられつつあることを心配しています。大金を持った投資家と科学者が協力することで、研究結果を懐疑的にみる視点が欠如しつつあるのです。

誇大広告についての懸念にもかかわらず、科学者らは確固たるエビデンスによって将来への道を切り拓くことを望んでいます。

ただお金を稼ぎたいだけなら、効果が証明されていないサプリメントを売る優秀な営業を雇えばいいのです。 しかし、ヒトで効果がある薬を見つけたいなら、まったく異なるアプローチをが必要です。それは、堅実に研究を行うための長くて骨の折れる、手間のかかるプロセスなのです。

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