ヒトの老化時計を巻き戻す、初めての研究報告:2019/09/08

ヒトの老化時計を巻き戻す、初めての研究報告:2019/09/08

「これは、我々が知る限り、ヒトの推定寿命を延長させた最初の抗老化研究報告です。アンチエイジング効果はエピジェネティックな年齢推定に基づいています。」

数十年にわたる研究の結果、ついに、3つの薬物の組み合わせでヒトの生物学的年齢と健康の尺度を若返らせるかもしれない有望な実験結果を得ました。

その結果は、不完全で時期尚早かもしれないですが、研究チームでさえ驚くほどのものでした。研究チームは当初、胸腺に対する成長ホルモンの影響を調べるすこし控えめな実験を設計していました。胸腺とは免疫システムを構築する上で重要な臓器であり、年齢とともに萎縮していきます。

「100歳以上生きる人では、免疫システムが保たれているのが見受けられます」、そして胸腺機能は全死因死亡率に関連している、とカリフォルニア州ロサンゼルスに本拠を置くIntervene Immuneの研究著者Gregory Fahy博士は説明します。 「だから、組織の機能が急低下する前に、中年男性の胸腺機能を維持するため、成長ホルモンを1年使用したいと考えていました」

それでも、何かが彼の心を悩ませました。危険な血糖値の上昇を起こしうる成長ホルモンの副作用に対処するため、チームは対策として2つの糖尿病薬を追加しました。 1つは、副腎から分泌されるホルモンであるDHEAです。もう1つのメトホルミンはよく使われる糖尿病薬なのでご存知かもしれません。前臨床研究に基づくと、メトホルミンは寿命延長効果をもつ薬の中でも、最も有望なアンチエイジング薬の1つです。 3つの薬剤はすべて、研究室での実験で、老化プロセスを遅らせることに関連していました。

もし、これらの薬の組み合わせで、目に見えるアンチエイジング効果を人間で引き起こすことができたら?

Fahy博士は、研究を終了する前に、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のSteve Horvath博士に相談しました。Horvath博士は、ヒトの生物学的な年齢、つまり毎年誕生日ケーキにつけるろうそくの数とは異なりますが、生体のコンディションから「本当の」年齢をよりよく反映して、人の生物学的年齢を評価する手段を見つけるためにキャリアを過ごしてきました。3種の薬物を1年間服用すると、参加者の生物学的年齢が平均で2.5年減少し、免疫が若返る兆候が見られました。

これは、とてつもなく大きな効果ではありませんが、計測結果はチームを熱狂させました。 「加齢が緩やかになることは予想していましたが、時間が逆行するとは予想していませんでした」とHorvath博士は述べています。「将来性を感じさせますね。」

私たちは老化を「治癒」したと言っているのではありません。しかし、ハエ、ワーム、およびげっ歯類を用いた数十年の研究の結果、人間におけるこの研究は、たとえコントロールが小さく試験が不完全であっても、我々に希望を与えてくれます。

老化の特徴

人の「本当の」年齢を測定することは驚くほど困難です。たとえば、遺伝学とライフスタイルの介入により、60代の人々の健康と精神状態は大きくばらつきがあります。生きた年数と比較して、生物学的年齢(本サイト別記事)は、健康状態や精神状態、加齢に伴う病気にかかるリスク、および死亡リスクとより相関しています。しかし、老化は徐々に全身を衰退させるため、科学者たちは最良のマーカーを見つけるのに苦労しています。

2013年、いくつかの研究グループがアイデアをまとめて、老化の特徴を一つにまとめました。いくつかのアイデアを次に示します。

①ゲノム不安定性

②テロメアの短縮; テロメアとは私たちの遺伝子を収容している染色体を保護するエンドキャップのようなものです。

③タンパク質代謝の機能異常

④細胞のエネルギー生産を担うミトコンドリアの衰退

⑤幹細胞の枯渇

⑥老化細胞の蓄積

上記のような老化マーカーを組み合わせることで、真の年齢を測定する最適な「時計」となりうるかもしれません。しかし、それが単一の尺度を用いるならば、エピジェネティックな変化が最も有用とされています。

エピゲノムは、遺伝子がどのようにタンパク質に翻訳され、続いて組織、臓器、そして全身を形作るかを制御します。エピゲノムは、遺伝子というランプに光をつけるスイッチのように、遺伝子配列自体にタグ付けされている化学構造として存在しており、遺伝子のオン/オフを制御する多様な化学構造をもちます(たとえば、メチル基という構造は遺伝子の転写スイッチをオフにします)。これらのタグのパターンは、加齢とともに大きく変化します。

過去数年間、Horvath博士らは、細胞DNAの何百もの位置をスクリーニングして、それらの場所がメチル基を持っている頻度を確認しました。これらのエピジェネティックなデータをアルゴリズムに入力することで、細胞(とその細胞をもつヒト)の本当の生物学的年齢を推定できる、数式に基づいた時計をいくつか発見したのです。

「最大の期待は、この時計によって、老化や老化の原因に真に関係するプロセスを測定することです」とHorvath博士は述べています。

免疫力の回復

この新しい研究による当初の焦点は、エピジェネティックな時計ではなく、むしろ免疫システムでした。胸腺は、肺と胸骨の間にある小さな腺組織であり、免疫を担うリンパ球を成熟・機能させることで感染症や癌と闘わせます。胸腺は免疫システムを維持するために重要ですが、脆弱な組織でもあります。思春期の後には縮小し始めて脂肪沈着に置き換わり、様々な免疫機能の異常と関係します。

およそ16年前、Fahy博士が46歳のとき、彼は成長ホルモンを使用して動物の胸腺機能を回復する有望な研究をレビューし、胸腺機能を回復する解決策を見つけたと確信しました。驚くべきことに、彼は自身で成長ホルモンと糖尿病治療薬DHEAを1か月間服用し、胸腺に再生の兆候を見つけました。

新しいTRIM(Thymus Regeneration, Immunorestoration and Insulin Mitigation)トライアルは、Fahy博士のの自己実験に基づいています。この研究では、51歳から65歳までの9人の白人男性を募集し、3薬剤のコンボを1年間投与しました:胸腺再生のための成長ホルモン、および高血糖と戦うためのDHEAとメトホルミンです。後者の2つは、動物で有望なアンチエイジング効果がみられているため選択されました。

トライアル中、チームは定期的に血液サンプルを採取して免疫細胞数を分析し、医療用の画像検査を使用して胸腺の組成を確認しました。年齢とともに、免疫細胞のタイプと数が変化し、これが潜在的に有害であると言われています。TRIMトライアルの結果、免疫細胞が若年者でみられる構成へと変化しただけでなく、画像検査では参加者の胸腺で脂肪のシグナルが少なくなり、健康な再生組織に置き換えられました。

驚くべき若返り効果

エピジェネティクスに基づく時計の研究は、後から思いついたものでした。トライアルが完了した後、Fahy博士はデータを再検討するためにHorvath博士に連絡しました。

結果は両者に驚きを与えました。 4つの異なるエピジェネティック時計を使用して、Horvath博士は各参加者の生物学的年齢を測定しました。すると、参加者のエピジェネティックな年齢は、最初にトライアルに入ったときよりも平均で1.5年若かったのです。さらに、9か月の治療では、アンチエイジング効果が加速しているようでした。つまり、薬を服用する時間が長ければ長いほど、エピジェネティク時計が巻き戻されるように見えました。薬の効果は、服用をやめた後でも少なくとも6ヶ月間持続しました。

実験結果が、非常に一貫性をもち長続きしたため、Horvath博士は楽観的に考えています。サンプル数が少なくても、この結果はまぐれではないのだと。アンチエイジング効果は別として、他の計測結果においても有望なデータが得られました。若返り実験の最も危険な副作用の1つに、「不死」の特徴をもつ癌細胞の発生があります。この研究では、高リスクで発生する可能性のある前立腺癌のみを調査しましたが、癌発生の危険を示唆するバイオマーカーは見つかりませんでした。

この研究は、人間の若返りが可能であると決定付けるものではありません。非常に小規模の研究であり、十分に実験条件が管理されていないため、「結果は確固たるものではない」と考えられています。

さらに重要なことは、研究チームは薬がどのように作用しているかを知らないことです。主なアイデアは、カロリーを制限するのと同じ分子経路で作用しているという考えです。カロリー制限は動物に対する強力な老化防止介入でもあります。さらに、エピジェネティックな年齢は生物学的な年齢と同義ではありませんが、年齢に関連する健康上のリスクという点で考えると両者は近似できるでしょう。

とにかく結果は有望です。 Intervee Immune社は現在、有効性をさらに評価するために、さまざまな年齢、民族、性別を考慮し、より多様な集団を対象とした大規模な試験を計画しています。

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