サーチュインの科学「ゲノムの守護神」

サーチュインの科学「ゲノムの守護神」

サーチュインはあなたの細胞の健康を保ち、加齢において重要な役割を担う。 サーチュインがどのように機能するのか、身体にどのような影響を及ぼすのか、そしてなぜサーチュインが機能するためにNAD+が必要なのかについて紹介する。

本文中より

サーチュインは、細胞の健康状態を調整するタンパク質のファミリーであり、 DNA発現などの重要な生物学的機能や老化の一面において欠かせない存在です。 しかしながら、サーチュインは、全ての生細胞に見られる補酵素であるNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)[本サイト別記事]の存在下でしか機能しません。

サーチュインとNAD+の関係

あなたの体の細胞を仕事のオフィスと想定してみましょう。オフィスでは、多くの人が最終的な目標に向かって様々なタスクに取り組んでいます。収益を維持し、可能な限り効率的な方法で会社の使命を果たす為にです。

細胞の中も、健康を維持しできるだけ長く効率的に機能するという目標を掲げて、タスクに取り組む複数のパーツによって成り立っています。社内外のさまざまな要因によって会社の優先順位が変わるのと同様に、細胞内での優先順位も変わります。誰かがオフィスを運営し、いつ何をするのか、誰がするのか、いつ方針を切り替えるのかを規制しなければなりません。

オフィスではそれがCEOであり、体内の細胞レベルではサーチュインがその働きをします。

「長寿遺伝子」と呼ばれるサーチュインは、細胞の健康を制御することで加齢に影響を与える7つのタンパク質のファミリーです。サーチュインは、NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の存在下でのみ機能し、NAD+は補酵素として全ての生細胞でみられます。

NAD+は、代謝および他の何百もの生物学的プロセスに不可欠です。サーチュインを企業の最高経営責任者とすると、NAD+はCEOと従業員の給料を支払うお金であり、NAD+を通して会社が機能しオフィスの賃料が支払われます。

会社も体も、それなしでは機能できません。しかし、NAD +のレベルは加齢とともに低下し、それによりサーチュインの機能も制限されます。

サーチュインの生理的役割

サーチュインはタンパク質のファミリーです。タンパク質と言うと、食事中でとるもの(豆や肉、プロテインシェイク)をよく耳にしますが、この場合、タンパク質と呼ばれる分子について話しており、体中の細胞内に存在し、個々が異なる機能を持っています。

タンパク質を会社の部署と考えてみてください。それぞれの部署は独自の機能をもつ一方で、他の部署とも連携しています。

体内でよく知られているタンパク質はヘモグロビンです。これは、グロビンファミリータンパクの一種であり、血液中の酸素を輸送する役割を果たします。ミオグロビンはヘモグロビンの亜型であり、共にグロビンファミリーを構成します。

あなたの体は約60,000のタンパク質ファミリーを持っています。(部署が沢山ありますね!) そしてサーチュインはそれらのファミリーの一つです。ヘモグロビンは2つのタンパク質から成るファミリーですが、サーチュインは7つのタンパク質から成るファミリーです。

細胞内の7つのサーチュインのうち、3つはミトコンドリア、3つは核、1つは細胞質で働き、それぞれ異なった役割を果たしています。しかし、サーチュインの基本的な役割は、他のタンパク質からアセチル基を除去することです。

アセチル基は特定の反応を制御します。それらは、タンパク質上の物理的な目印であり、ほかのタンパク質が認識し反応します。タンパク質が細胞にある部署で、DNAがCEOの場合、アセチル基は各部門長が対応可能かをみるステータスです。

たとえば、あるタンパク質が対応可能であれば、CEOが対応可能な部門長と協力して何かを実現できるように、サーチュインはそれを使用して何かを実現することができます。

サーチュインは、脱アセチル化と呼ばれる反応を行うことで、アセチル基を操作します。これは、分子上にアセチル基があることを認識してからアセチル基を除去することを意味します。

サーチュインが機能する1つの方法は、ヒストンなどのアセチル基を除去する(脱アセチル化する)ことです。例えば、サーチュインは、クロマチンと呼ばれるDNAの凝縮型に付属しているヒストンというタンパク質を脱アセチル化することで、DNAを保護するのに役立ちます。

ヒストンは、大きなタンパク質の塊で、DNAが周囲に巻きついています。クリスマスツリーを考えてみて下さい。そしてDNA鎖は光の鎖です。ヒストンがアセチル基を有するとき、クロマチンは開いている、もしくは解かれている状態です。

クロマチンの解かれた状態は、DNAが転写されていることを意味し、これは生きる上で不可欠なプロセスです。しかし、解かれたままの状態というのはダメージを受けやすく、その状態が続くことは好ましくありません。これは、クリスマスライトが絡み合ったり、電球を点灯し続けると消耗するのと同じです。

ヒストンがサーチュインによって脱アセチル化されると、クロマチンは閉じた状態となり、遺伝子発現が停止し、DNAを損傷から護ります。

サーチュインが研究され始めて約20年間しか経過していませんが、主な機能(「長寿遺伝子」というニックネームを獲得した所以) は1990年代に発見されました。それ以来、研究者たちはサーチュインを研究するために集まり、健康と老化に対する重要性を確認しながら、更に新しい発見を求めて疑問を投げかけ続けています。

サーチュインの発見

遺伝学者のAmar Klar博士は1970年代にSIR2と呼ばれる最初のサーチュインを発見し、それが酵母細胞の繁殖を制御することを発見しました。 数年後の1990年代に、研究者らはワーム、ミバエなどの他の生物において、SIR2と構造が似ている他の遺伝子を発見し、これらのSIR2亜型はサーチュインと命名されました。

各生物には異なる数のサーチュインが存在しています。 例えば、酵母には5つのサーチュインがあり、細菌には1つ、マウスには7つ、そして人間には7つあります。

サーチュインが種を超えて存在する理由は、進化の過程でも「保存」されていることを意味します。「保存」されている遺伝子は、多くもしくは全ての生物において普遍的な機能を持っています。ただ、当時はまだどれほどサーチュインが重要か分かっていませんでした。

1991年、Elysium創設者の一人であり、MIT生物学者でもあるLeonard Guarente氏は酵母の老化について理解を深めるために実験を行いました。冷蔵庫の中で何ヶ月も眠らせたサンプルの中から、様々な種の酵母を育てるという試みです。

これは、酵母にとってストレスのかかる環境でした。数ある内のいくつかの種が発育しましたが、Guarente氏と彼のチームはその中にパターンを見出しました。

それは、冷蔵庫の中で最も良い状態で生き延びた種の酵母が、最も長寿だということです。Guarente氏はこの結果から、長く生きた種に集中して、どの遺伝子が長寿と関係しているかを効率的に見つける研究に取り組みました。

この研究が、酵母の長寿を促進する遺伝子であるSIR2の特定に繋がったのです。Guarente氏の研究室は、SIR2を除去することで大幅に寿命が縮まることや、更に重要なことに、SIR2遺伝子のコピー数を倍に増やすことで寿命が伸びることを発見しました。

つまり、SIR2を活性化することで寿命が延びるのです。しかし、何がSIR2を活性化させるのかについては、まだ明らかになっていませんでした。

サーチュインとカロリー制限

NAD+は、栄養をエネルギーに変換する代謝において鍵となる役割を担います。そして、サーチュインがNAD+を必要とするというGuarente氏の発見は、サーチュインと代謝との繋がりを科学者に想起させました。

これは、サーチュインとカロリー制限との関係における理論に火をつけました。カロリー制限は寿命を延ばし、マウス、ワーム、サルにおいて加齢性疾患の発症を遅らせることが示されています。

カロリー制限の状況下では燃料が少ししかないので、細胞はエネルギー効率をよくするよう強いられ、サーチュインがこの代謝を指揮します。

この発見の背景として、科学者たちは、カロリー制限が健康にどのように役立つかについての研究を長い間続けてきたことがあります。

例えば、動物の初期の研究では、定期的に絶食することの利点が実証されています。 Valter Longo氏による2015年の研究では、定期的に絶食したマウスは、認知機能の大幅な改善や老化、糖尿病、心血管疾患の危険因子の減少などがみられました。

そして2017年Longo氏の人間を対象にした研究では、ファスティングを模倣した食事を摂っている人、つまり毎月5日連続したカロリー制限を3ヶ月行った人で、血圧の低下及びインシュリン様成長因子の減少が認められました。インスリン様成長因子は、老化に関与する物質です。

また、他のカロリー制限食も関心を集めています。例えば、ヒトではほとんど研究されていませんが、毎週2日間、低カロリー・低炭水化物の食事をとる5:2食事法というものがあります。これは、疾患マーカーを改善する方法として宣伝されており、減量に効果的であることが示されています。

しかし、カロリー制限は厳しいライフスタイルが強いられる選択であり、最大50パーセントのカロリー削減が必要となることもあります。 さらに、これらの食事療法が人間で確実にうまくいくとは限りません。

そのため、サーチュインが低分子によって活性化される可能性があることは、明確にチャンスとして捉えられています。 実際、NAD+前駆体であるニコチンアミドリボシド(NR)[本サイト別記事]は、動物のNAD +レベルを上昇させ、サーチュインを活性化し、寿命延長を含む多くの健康上の利点を与えています。

さらに、7つのヒトサーチュインのうちの1つ、SIRT1は、ポリフェノールと呼ばれる天然化合物によって活性化されることが示されており、活性化物質として最も有望なものに、ブルーベリーに見られるプテロスチルベン[本サイト別記事]が挙げられます。

NRとプテロスチルベンを組み合わせることは、ヒトにおいてサーチュインを活性化するための最強のコンビであり、これがElysiumの商品”Basis”の科学的根拠とされています。

サーチュイン研究と未来

サーチュインの研究は、老化や代謝活動と強く結びついています。 最近のマウスの研究では、サーチュインが肥満アルツハイマー病腎臓病肝疾患炎症性疾患骨粗鬆症、そしてにも関連していることが確認されています。

例えば、マウスでSIRT1を活性化すると、アルツハイマー病に起因するとされる神経タンパク質の蓄積を減らすことができます。 この研究はまだ人間で確認されていませんが、大きな期待がなされています。

「現在、サーチュインに関する論文は12,000に上るでしょう」とGuarente氏は述べています。 「我々がNAD +依存性デアセチラーゼ活性を発見したとき、論文の数は100くらいでした。」

サーチュイン研究が拡大し続ける中で、サーチュインをNAD +前駆体で活性化することが、寿命の延長だけでなく、より健康的な生活につながる素晴らしい成果もたらすと期待されています。

長寿研究カテゴリの最新記事