老化を遅らせる6つの有望な研究

老化を遅らせる6つの有望な研究

加齢の根本的原因は分子レベルおよび細胞レベルで始まる。 老化研究において先駆的な科学者であるLeonard Guarenteが、老化のしくみ、なぜそれが健康の低下につながるのか、そして有望だと考えられている6つの研究を説明する。

老化に対する認識の変化

2億年前の世界の地図を見てみると、それは今日の地図とはかけ離れています。 かつてパンゲアと呼ばれていた巨大な大陸は、今では全く違ったものになっています。海と山脈、さらには気候が異なる、7つの別々の大陸です。 しかし、それは一瞬で起こったわけではありません。 長い時間をかけてゆっくり変化していきました。そして現代の科学者達は地球表面の下のプレートの微小な移動が原因で、永遠に変化し続けているのを知っています。

人間が年をとるにつれて、似たようなことが起こります。 表面下、細胞内および細胞間のわずかな変化がさまざまな形で身体機能の低下を引き起こします。一日を通してより少ないエネルギーを消費し、目の周りの細かいシワ、視力低下、白髪、関節痛、そして最終的に加齢に伴う慢性疾患へとつながります。しかし科学者達のおかげで今、時間が人間を老いさせる事だけでなく、どのように時間が人間を老いさせるのかが明らかになりつつあります。

MITのグレン老化研究生物学研究センター・ディレクターでありElysium Healthの創設者でもあるレオナルド・ガレンテ氏は、次のように述べています。  「私はたいていの人が自分自身の状態に関して人生の後半で老化について考えると思います、老化によって与えられるあらゆる影響について。しかし、 細胞レベルまで考えている人はほとんどいません。」

これまでは、細胞レベルでの老化の知識について不十分だったかもしれませんが、今日の科学者たちは老化がどのように起こるかについて十分に理解しており、老化を遅らせたり、若返らせる可能性も見えてきています。

なぜ老化を気にするのか

加齢は多くの慢性疾患で主要な危険因子です。つまり、癌、糖尿病、心血管疾患などでリスクが加齢とともに上がるにも関わらず、加齢はそれ自体が疾患として分類されないことを理解することが重要です。しかし近年、加齢と慢性疾患の関係は密接であることを医学界が認識し始めています。2018年に、世界保健機関(WHO)は、死亡率・罹患率統計及びICD-11で、国際疾病分類の第11改訂に「加齢関連」疾患を追加しました。

新しい改訂では、「加齢関連」疾患を、「生物の順応性の喪失および加齢による継続的な進展を特徴とする病理学的プロセスによって引き起こされる」疾患と定義しています。 ICD-11への追加は、加齢を治療可能なものとして位置付けるのに役立ち、治療や介入につなげることを理想としています。これは、老化の原因を完全に突き止めたと言っているわけではありませんが、介入可能という視点を持つ事で、今後ますます分子や細胞のレベルにある多くの問題を突き止めることが出来たら望ましいと考えています。これこそまさに、グアレンテを含む科学者たちが取り組んでいることです。

老化は細胞レベルで生じる

Cell誌が2013年に発表したレビュー論文「The Hallmarks of Aging」によれば、「加齢は生理的恒常性が徐々に低下していくことを特徴とし、機能障害および死に対する脆弱性の増大を招く」とされています。この論文では、老化について9つの特徴を指摘しました。ゲノムの不安定性、テロメアの消耗、エピジェネティックな変化、プロテオスタシス(タンパク質恒常性)の喪失、栄養感知の異常、ミトコンドリア機能障害、細胞の老化、幹細胞の枯渇、および細胞間コミュニケーションの変化です。

これが訳の分からない専門用語のように聞こえても普通のことです。細胞の健康と細胞損傷の仕組みは複雑であり、このため加齢の原因究明に近づくまでに何年もかかりました。最もわかりやすい特徴の1つに、ミトコンドリア機能障害があります。ミトコンドリアは各細胞内の細胞小器官であり、呼吸が起こる部位です。細胞のATP、つまりエネルギーの大部分はミトコンドリアで作られています。

「加齢とともに、ミトコンドリアは機能が低下し始めます」とGuarenteは言います。 「おそらく細胞内で起こることは、機能低下により正常な修復プロセスが遅れるようになり、その時点でミトコンドリアの効率が低下します。これによりミトコンドリアや他の細胞器官に損傷を与える活性酸素種と呼ばれる有害物質が生成されます。細胞障害はさらにミトコンドリアや細胞の機能の低下をもたらし負のループへと陥ります。」

機能不全のミトコンドリアは、さまざまな健康問題の原因となっています。一例が、加齢に伴う神経変性疾患であるアルツハイマー病です。アルツハイマー病のマウスモデルにおける2017年の研究で、ミトコンドリア機能の増強がアミロイド斑形成を減少させ、全体的な脳機能を改善することを見出しました。

ミトコンドリアは、いわゆる細胞の「発電所」ですが、身体を動かすエネルギーを絶え間なく供給してくれるだけではありません。私たちの生物学的なプロセスをも働かせているのです。ミトコンドリアが機能不全になると、細胞の発電所が枯渇し、身体全体で健康を維持するために必要な全てのことを実行できなくなります。そのため、たった1つの老化の特徴が、結果として、他の特徴にも波及して、あらゆる細胞へ悪影響をもたらします。

覚えておいて欲しいことは、加齢によって一度多くのことが上手くいかなくなると、悪影響がそれぞれを増強しながら広がっていくということです。それこそが、老化の9つの特徴がもたらす影響であり、相互に関係し合ってダメージを与えます。

「私の見方では、1つだけではなく、それらすべてに影響を与える介入を検討する必要があります」とGuarente氏は言います。これこそが今後課題となっています。

老化を遅らせる6つの有望な研究

・ミトコンドリア機能の研究

Johan Auwerx(医学博士)は、École Polytechnique Fédéraleの教授です。彼は、特に食事、運動、および薬物介入がミトコンドリア機能にどのように良い影響を与えることができるかを研究する統合システム生理学研究室(LISP)を主導しています。

・細胞リプログラミング

2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した、山中伸弥氏とJohn B Gurdon氏は、成熟細胞が多能性細胞に再プログラミングされ、未成熟細胞は理論的には新たな細胞に再プログラムされる可能性があることを発見しました。治療という観点から、この技術を人間に応用する方法について研究が続けられています。

また、老化に関わる遺伝子のスイッチのオン・オフを切り替えるエピゲノム編集技術で、マウスの若返りが実証されています。イズピスア・ベルモンテ教授は、「エピジェネティクマーカー」をリセットすることで、マウスへ強力な若返り効果を与えましたが、これらのマウスは3,4日後に、細胞の機能不全または腫瘍の発生により死亡しました。

・シンプルな生活習慣の改善

ハーバード大学の研究者たちは、あなたが10年以上長く生きるのを助ける5つの生活習慣を発見しました。

 ①1日最低30分以上の運動

②健康的な体重の維持(BMI:18.5~24.9)

③飲酒の制限(1日当りワイン量:女性5オンス未満、男性用10オンス未満)

④健康的な食事

⑤禁煙

34年間の研究から結論がもたらされ、女性の場合は14年間、男性の場合は12年間寿命を延ばすことができました。

・老化細胞除去療法

生物学的プロセスとして分裂を止め細胞の健康に大きな打撃を与える老化細胞を標的にする方法が研究されている。 マウスを用いた研究では、心臓機能の改善や老化に関連する骨粗鬆症の治療などで前途有望な結果が出ている。

・カロリー制限

こちらも有望な研究結果が出されています。昔から知られている介入で、様々なカロリー制限の方法が試みられています。時間的な制約を加えた食事や、定期的なカロリー制限、期間を区切ったファスティングなどレジメンが多様で、それぞれ特有の効果がでています。カロリー制限は、長寿の鍵として長く研究されており、その良い効果が現在社会の中で認められ始めています。Hugh Jackmanやその他のセレブにおいても、その効能がもてはやされています。

・NAD+サプリメント

NAD+は、加齢とともに減少する補酵素です。動物研究の結果、NAD+の補充が筋肉機能改善、DNA損傷修復能の向上、認知機能の回復がみられました。人間における研究では、サプリメントによりNAD+レベルが上昇・持続することが示されています。科学者は、NAD+の上昇がサーチュインを活性化し、カロリー制限と同様の効果が得られる可能性があると結論付けています。

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